はじめに
「いつもは普通にできるのに、急に手が止まる」「頭では分かっているのに、体がいうことをきかない」。
スポーツの話題で耳にすることが多いイップスは、実は日常生活でも起こりうる現象です。
プレゼン中に声が出にくくなる、ピアノで手が固まる、仕事のルーティン作業で急にミスが続く——そんな“急にできなくなる”体験を、わかりやすく解説します。

テレビで「イップス」って言葉が出てきて、何のことかわからなかったんだよね・・・(恥)💦
イップスって何?
イップスは、これまで問題なくできていた動作が、強い不安やプレッシャー、あるいは体の動きの癖などの影響で、特定の場面だけ急にうまくできなくなる状態を指す言葉です。
スポーツで有名ですが、次のような日常の場面でも起こります。
- 会議での発表で声が震え、言葉が出にくい
- ピアノやギターで、いつも通りの指が動かない
- 人前で字を書くときに手がこわばって震える
- コールセンターや接客で、台本通りに言葉が出てこない
- 自動車の車庫入れで、特定の状況だけ何度も失敗する
「怠けている」「根性が足りない」といった問題ではなく、心と体の連携が一時的に乱れている状態と考えると理解しやすいです。
よくあるサイン(症状の例)
- 手や声が震える/固まる
- タイミングが合わない、リズムが崩れる
- 体が勝手に力む、変な力が入る
- 「また失敗するかも」という予期不安が強まる
- その場面を避けようとして、生活や仕事に支障が出る
ポイントは、特定の状況でだけ起きやすいこと。リラックスして一人で練習するとできるのに、人前だと途端に難しくなる——というのは典型的なパターンです。
なぜ起こるの?(シンプルに仕組み)
イップスはひとつの原因だけでは説明できないことが多く、次の要素が重なって起こります。
- 心理面:プレッシャー、完璧主義、過去の失敗記憶、評価される不安
- 体の使い方:同じ動作の繰り返しによる癖、過剰な力み、フォームの乱れ
- 状況要因:見られている場、静かで緊張する環境、重要局面
- 神経のはたらき:動作を自動で行うはずの回路が、意識しすぎでうまく回らなくなる
要するに、「うまくやろう」と意識しすぎて、体の自動運転が解除される——このイメージが近いです。
自分でできる対処(今日から試せる)
いきなり“根性勝負”にしないこと。負担の少ない対処から始めましょう。
1) からだの力みをほどく
- 息を長く吐く(4秒吸って6〜8秒吐く)を数回
- 首・肩・手指のマッスルリリース(軽く回す/握って開く)
- 「力を入れる→抜く」をセットで3回、脱力の感覚を覚える
2) 動作を“分解”して小さく成功体験
- プレゼン:一文だけ暗記して、視線を横に逃がしながら言う
- 楽器:ゆっくりの超低速で、指の形だけ確認
- 文字:太いペン→細いペンの順に段階を踏む
- 車庫入れ:時間帯や場所を変えて成功を積む
3) 言葉のメモで思考を整える
- 「失敗してもOK」「今は練習」「60点で通過」など、合図の言葉をポストイットに
- 反すう(失敗の反芻)を止めるため、起きた事実だけ1行で記録
4) 条件を少し変える(“感覚トリック”)
- ペンを少し太く/短くする、紙の向きを変える
- 立つ位置を半歩ずらす、握りの強さを10→4へ
- 目線を“相手”ではなく、資料の角や壁の点へ固定
小さな工夫で、自動運転が戻りやすくなります。
5) 本番の設計を変える
- 最初の30秒はルーティン化(同じ一言、同じ動き)
- いきなり難度MAXにしない。一段低い難易度から入る
- “ここで詰まったら◯◯を言う/する”という代替プランを用意
役立つ専門的アプローチ!
- 認知行動療法(CBT):不安や完璧主義の調整、予期不安への対処
- 段階的暴露・イメージトレーニング:負荷を少しずつ上げて馴化
- 動作の再学習:フォームの見直し、“力を抜く練習”の組み込み
- マインドフルネス:今の感覚に注意を戻す練習
- (医療領域)パフォーマンス不安に対する薬物療法が検討される場合や、
局所性ジストニアが疑われる場合は専門医で評価。※薬や先端治療は必ず医師の管理下で
受診の目安:日常や仕事に支障が続く/避け行動が増えて生活範囲が狭くなる/震えやこわばりが場面を越えて広がる——このいずれかが当てはまれば、心療内科・精神科、神経内科、リハビリテーション科などで相談を。
予防と日々のメンテ
- 睡眠・栄養・運動のベーシックを整える
- 完璧主義を“現実的な基準”へ(80点で良しの練習)
- 失敗を情報として扱い、人格評価と切り離す
- 重要タスクの前に、同条件の“肩慣らし”を必ず入れる
- うまくいった時の具体的メモ(姿勢・視線・力みの強さ)を残す
クイック自己チェック(3つ以上で要対策)
- □ 人前だけで、手・声・体が固まる
- □ その場面を考えるだけで動悸や息苦しさが出る
- □ 避けるための代替行動が増えている
- □ できた時の再現ポイントを言語化できていない
- □ 成功より失敗の映像ばかり繰り返し浮かぶ
まとめ
イップスは、心と体の連携が一時的にかみ合わなくなる現象。スポーツだけの話ではなく、私たちの日常にも起こりえます。
大切なのは、根性論にせず、小さく分けて、成功を積み直すこと。環境を少し変える、脱力を覚える、言葉で整える。必要なら専門家の助けも取り入れて、**“また動ける自分”**をていねいに取り戻しましょう。
付録:場面×コツ 早見表
| 場面 | 起こりがちなこと | 今できるコツ |
|---|---|---|
| プレゼン・スピーチ | 声が震える、言葉が飛ぶ | 最初の一文を固定/視線を資料の角へ/呼気長め |
| 文字を書く | 手が震える、力みすぎ | 太いペン→細いペンへ段階化/紙の角度変更 |
| 楽器演奏 | 指がもつれる | 超低速→区切り練習→通し/握力4割を意識 |
| 接客・コール | 台本が出てこない | “つなぎの一言”を決めておく/深呼吸→1拍置く |
| 運転・車庫入れ | 同じ場面でだけ失敗 | 時間・場所・角度を変えて成功を作る/手順カード |


